冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「邪魔をしてすまなかった。
 向こうでダウリスが君を見張ってくれている。安心して掃除を続けてくれ」
「邪魔だなんて、そんな……」
「私はもう少し家臣から身を隠しておくことにする」

 さっき見せてくれた笑みはすっと影を潜め、わずかに口端を上げただけで、ディオンは柱の陰から陽の下に出て行ってしまう。
 その表情がなぜか、かすかに物哀しそうに見えたけれど、気のせいかもしれないと引き止めることもできずに、フィリーナはただ去っていく背中を見送る。
 頬に残る温かな指の感触と薔薇の香りに、きゅうと息苦しさを覚える胸を堪えながら。


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