冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*


 盛んだった太陽の威勢が、午後になるとともに徐々に下がっていく頃。
 フィリーナは、メリーから言いつけられた仕事を一通り終えた。
 使用人達の束の間の休息、各々が思い思いの時間を過ごしているところで、フィリーナは一人、王宮の外にある礼拝堂に足を運んできた。

 明日の晩餐会を前に、苦しくなる胸を少しでも落ち着けたかった。
 胸が締めつけられるのは、グレイスの心が心配だからなのだろうと、思う。

 あれからフィリーナには、一切関わろうとしないグレイス。
 それが、逆にフィリーナの不安を煽っていた。
 別の誰かに、あるいはメリーに、グレイスの魔の手は伸びているかもしれなかったからだ。

 それまで王と王妃の不在の国を、お互いを支え合い、見守ってきたディオンとグレイス。
 しかし、グレイスの愛に狂った行動が、国の安定を揺るがしかねない事態になってしまった。

 自分の身が通る分だけ大きな扉を開ける。
 神聖な空気を肌で感じながら、磨き上げられた板張りに自分の足音を鳴らして奥へと進んだ。
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