冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「さあ、これを」

 催促するようにぐっと器を近づけるメリー。
 透明の水が、一瞬どす黒い渦を巻いたように見えた。
 そして、過った第六感がフィリーナの首を横に振らせた。

「け、結構です……」
「あら、遠慮しないで?」

 ふるふるとにわかに震えだした身体をあとずらせる。
 これは受け取ってはいけないものだ。
 口にすれば、きっとただでは済まされない。

「フィリーナ、あなたにはもう休息を取ってもらいたいのよ、……長い長い、永遠の休息を」

 笑んでいた表情がみるみる恐ろしい形相に変わっていく。
 眉は吊り上がり、見開いた目は血走っている。
 足元から駆け上がる恐怖に、身体の震えが強まった。

「ワタクシの親切を断るなんて、あなたは身の程を知らなすぎるわ」

 静かに、でも低く奥歯を噛みしめるような声に、メリーの苛立ちを見る。
 器の水が手を濡らすのも構わずフィリーナに押し迫ってきた。
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