冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 まもなく林を抜けようとしたところで、行く先に何やら大きな影が道を塞いでいた。
 フィリーナは歩みを緩めて近づいていくと、それが馬車であるとわかった。
 夕陽のおこぼれにささやかに煌めく金の装飾品。
 馬の繋がれる黒の漆喰の箱は、豪華に着飾ってあった。
 窓掛けの布で覆われている硝子窓の中は覗くことはできない。
 けれど、この馬車には見覚えがあった。

 黒い箱の周りを縁取る金の蔦の装飾は、隣国ヴィエンツェの紋章と同じもの。
 今日、レティシア姫が乗ってきた馬車に間違いなかった。

 ――どうしてこんなところに停めてあるんだろう……
 
 馬は木に繋がれているものの、従者である騎士団長の姿はどこにもない。
 夜になってしまう前に、宿場にでも立ち寄っているのか。
 しかし、この林の中に宿場なんてあるわけもなく、泊めてもらえるような修道院もない。

 フィリーナは不思議に思いながらも、馬車を避けて先に行こうとすると、さらに先にも見知った白馬を見つけた。
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