冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
――どうして、こんなこと……っ
「離せ、グレイス」
一歩こちらへ歩んでくるディオンを潤んだ瞳で見つめる。
こんな恥ずかしい姿なんて見られていたくなくて、羽交い絞めされた腕から身をほどこうと試みた。
「兄さんのそんな顔は初めて見たな。気味がいい」
口の端で笑うグレイスは、こちらへ迫るディオンへもう一方の腕を伸ばした。
フィリーナを離さないままのグレイスにそれ以上の抵抗ができなかったのは、ディオンの喉元に鋭利な切っ先が突きつけられたからだ。
「グレイス様……っ!?」
あまりにおぞましい光景に悲鳴に似た声を上げてしまう。
震えるフィリーナの声は届いていないのだろう。
少しも手を下げる素振りもなく、グレイスは短剣とともにじっとディオンを見つめたままだ。
「そのまま貫けばいい。私が邪魔なのだろう?」
「よくわかってるじゃないか。親切な誰かが告げ口でもしたか? なあ、フィリーナ」
グレイスの普段どおりのまろやかな声に、はっと息を呑んだ。
「離せ、グレイス」
一歩こちらへ歩んでくるディオンを潤んだ瞳で見つめる。
こんな恥ずかしい姿なんて見られていたくなくて、羽交い絞めされた腕から身をほどこうと試みた。
「兄さんのそんな顔は初めて見たな。気味がいい」
口の端で笑うグレイスは、こちらへ迫るディオンへもう一方の腕を伸ばした。
フィリーナを離さないままのグレイスにそれ以上の抵抗ができなかったのは、ディオンの喉元に鋭利な切っ先が突きつけられたからだ。
「グレイス様……っ!?」
あまりにおぞましい光景に悲鳴に似た声を上げてしまう。
震えるフィリーナの声は届いていないのだろう。
少しも手を下げる素振りもなく、グレイスは短剣とともにじっとディオンを見つめたままだ。
「そのまま貫けばいい。私が邪魔なのだろう?」
「よくわかってるじゃないか。親切な誰かが告げ口でもしたか? なあ、フィリーナ」
グレイスの普段どおりのまろやかな声に、はっと息を呑んだ。