冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「本当の目的は何だ」

 バルト国国王の言っていたことが本当なら、兄妹での婚姻をした後、レティシアはどうするつもりだったのだろう。
 もう誰の目から見ても、レティシアがクロードと愛し合っているのは一目瞭然。
 それなのにもかかわらず、ディオンとの婚約を自ら申し出られたのはどうしてなのか。
 しかも、さらにグレイスと親密な仲になるような関係を築き、そのせいでグレイスはディオンを憎むまでになってしまった。
 ディオンを排除しようとしたのは、本当にグレイスの意思だけだったのか。

「母の恨みを、晴らそうとでもしていたのか?」

 ディオンがはっきりと口にすると、思いを巡らせていた頭が、回転良く全てのつじつまを繋ぎ合わせる。

「お母様……とても憐れなお方でしたわよ? お兄様」

 わざとらしい呼び方をするレティシアに、心臓がどきりと脈を乱す。
 バルト国王の話を信用していなかったわけではなかったけれど、今まで感じさせられなかった血縁関係がそこに見えたような気がした。
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