冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「お兄様はきっとご存知ないでしょうけれど、バルト国王に捨てられた母は、お父様に拾われてからは、それはそれは惨めな思いをたくさんされていたようでしたわ。バルトの妾のお下がりだと」
――酷い……
ついさきほど会ったヴィエンツェ国王の姿を思い出し、さらなる失望が苛立ちを膨らませる。
「けれど、あたくしが恨みなど晴らさなくとも、母はご自分で嫉妬に狂った思いを遂げられているわ。
お兄様はご存じかしら。バルト国王の正妻についた女が、この世から消えた理由を」
レティシアがおかしそうに話すことに、ふと思い出したことがあった。
――“母は、私の目の前で息絶えた。皆は口を揃えて病死だと言っていたが、……私はそうではないと思っている”
ディオンが以前言っていたことだ。
――まさか……
バルト国王妃様は、レティシア様のお母様の手で……?
信じられないようなことに動揺するフィリーナの前で、佇む王子二人の表情はうかがうことができない。
――酷い……
ついさきほど会ったヴィエンツェ国王の姿を思い出し、さらなる失望が苛立ちを膨らませる。
「けれど、あたくしが恨みなど晴らさなくとも、母はご自分で嫉妬に狂った思いを遂げられているわ。
お兄様はご存じかしら。バルト国王の正妻についた女が、この世から消えた理由を」
レティシアがおかしそうに話すことに、ふと思い出したことがあった。
――“母は、私の目の前で息絶えた。皆は口を揃えて病死だと言っていたが、……私はそうではないと思っている”
ディオンが以前言っていたことだ。
――まさか……
バルト国王妃様は、レティシア様のお母様の手で……?
信じられないようなことに動揺するフィリーナの前で、佇む王子二人の表情はうかがうことができない。