冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「私の妻となって、人生をともに歩んでくれないか?」
「……え……」

 ようやく吐き出した疑問は掠れる。

「結婚してくれ、フィリーナ」


 今度こそ、フィリーナにでも理解できるようにはっきりと言われた言葉に、全身が粟立った。

「ど、うしてで、ございます、か? ……わたくしは、何の地位も身分も持たない、ただの使用人で……」
「どうしてだなんて、わかりきったことを聞くな。
 私が君を愛しているからに決まっているだろう」
「……っ!!」

 やんわりと細められる眼に、言葉を失った。

「ただの使用人などと言うことはない。
 君は私のために、ヴィエンツェで大声を上げてくれたそうじゃないか。
 それに、国のこともいつもよく考えてくれている。
 ただ裕福に暮らしたいがためだけに、妃に名乗りを上げる令嬢達とは違うではないか。
 まして、私とこんなにも想いを通わせ合っているのだ。
 こんなにも王妃に適した娘は他にいないぞ?」
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