冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「今宵も、月は綺麗ですね」
脳裏をちらついたまさにその人物の声が、グレイスの耳に飛び込んできた。
「ああ、そうだな」
続いて聴こえたのは、穏やかな声で返される相槌だ。
少し離れてはいるもののバルコニーに出れば、風向きで隣の部屋からの声が聴こえることはしばしばあった。
ここしばらく夜は外出していたから、こうやって隣の二人に遭遇するのは久しぶりだ。
ゆっくりとした時間が、かすかな緊張感を纏う。
「今日は家族と過ごせて楽しかったようだな」
「はい、とても」
ふふ、と笑いを含めるフィリーナの声に、愛らしい笑顔が思い出される。
心の隙間にすっと影を差すあの少し照れたような笑みを払おうと、グレイスは音を立てないように椅子から立ち上がった。
「あ……っ」
窓辺から離れようとしたグレイスの足を止めさせたのは、隣のバルコニーから聴こえた小さな色香を含めた声。
脳裏をちらついたまさにその人物の声が、グレイスの耳に飛び込んできた。
「ああ、そうだな」
続いて聴こえたのは、穏やかな声で返される相槌だ。
少し離れてはいるもののバルコニーに出れば、風向きで隣の部屋からの声が聴こえることはしばしばあった。
ここしばらく夜は外出していたから、こうやって隣の二人に遭遇するのは久しぶりだ。
ゆっくりとした時間が、かすかな緊張感を纏う。
「今日は家族と過ごせて楽しかったようだな」
「はい、とても」
ふふ、と笑いを含めるフィリーナの声に、愛らしい笑顔が思い出される。
心の隙間にすっと影を差すあの少し照れたような笑みを払おうと、グレイスは音を立てないように椅子から立ち上がった。
「あ……っ」
窓辺から離れようとしたグレイスの足を止めさせたのは、隣のバルコニーから聴こえた小さな色香を含めた声。