冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「何をなさるのですか……っ!」

 思いがけない抵抗に、半歩だけ後ずさるグレイスから、カレンは身をよじって自身を庇う。
 口元に手を当てたカレンは、強い眼差しでグレイスを睨みつけた。

「戯れだ」

 上目遣いにグレイスを見る強い眼差しに、もう一人の赤髪の面影を見た。
 いつだったか、フィリーナもこんな風に自分に強く反発をしたことがあった。
 簡単にグレイスの誘惑に陥り、あんなに目を潤ませ頬を熱くしていたくせに。
 自分がディオンを守ると言い張ったあの目と、同じものが今目の前にある。

 途端に虫の居所が悪くなり、胸を掻きむしりたくなる。
 どうにも治まらない苛立ちを、自身を守ろうとする細い腕を掴んでぶつけた。

「きゃ……っ」

 そばにあった脚付きのソファに小さな身体を放る。
 今は暗がりで見えないけれど、細かい刺繍の施されたソファは、痛みなくカレンの身体を受け止めてくれた。
< 350 / 365 >

この作品をシェア

pagetop