冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「グレイス様」

 柔らかな玉のような頬に口唇を滑らせると、さっきの恐怖に怯えたような声音とは違うものが、耳元に語り掛けてきた。

「わたくしが、先ほど何を申したか覚えていらっしゃいますか?」

 あまりに冷静な声に、グレイスはたぎる熱の中に冷や水を掛けられたような気がして、カレンから顔を離した。

「わたくしは、母に薬を飲ませなければならないのです。
 水をいただきたかっただけなのです。
 もし……」

 真下から強くグレイスを見上げてくる瞳には、グレイスの胸を貫くような潔い意志が込められていた。

「グレイス様がわたくしを手籠めにされたいのなら、……構いません。
 ただ水を、母に水を届けてからでも、よろしいでしょうか」
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