冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 いつの間にか抵抗をやめていたカレンは、ほんの一瞬の間で、グレイスに身を捧げる覚悟を決めたのだ。
 それは、病弱な母のため。
 自分の身を賭しても大切なものを守ろうという強い意志だ。

「お願いします、グレイス様……」

 深く瞬き、懇願の揺らぎを宿したつぶらな瞳に、ぎゅうと胸の奥が締めつけられる。
 その眼差しに見つめられるのが苦しくて、グレイスはうなだれてしまった。

 ――何をしているんだ、僕は……

 ディオンは、国に対する大きな責任と、愛する人がいる。
 フィリーナも、自分を張ってでもディオンを守ると誓っていた。
 カレンもまた、そんな二人と同じように、守るべき者がいるのだ。

 自分には守るものがないのだと、思い知らされた。

 ――隙間の空いた心が、淋しい。
 
 毎夜、女に身体を慰めてもらっても、どうしても心は潤わなかった。
 逆に、虚しさは日々募っていたような気がする。
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