冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 身内だけで、祝賀の食事会を終えたあと。
 公務のないうららかな午後のひと時を、どう一人で過ごそうかと回廊を渡り歩いていたときだった。
 きょろきょろと辺りを見回しながら、何やら探し物をしている様子のカレンを回廊の向こう側に見つけた。
 こちらに歩いてくるカレンが、グレイスの姿に気づく。
 カレンははっとして顔を背け、足音だけを中庭に零しながら二人はすれ違った。

「なんだ、また迷っているのか」

 今朝の挨拶も、婚儀のときも、食事会の最中も、カレンへ向けた視線はことごとく外されていたグレイス。
 すれ違い様振り返って見た赤髪の後ろ姿に、意地悪く声を掛けてみた。
 さすがに他に誰も居ない場所で、明らかに自分に声を掛ける王子を無視することはできないことを、グレイスは見越していた。
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