冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「いえ……」

 足を止め、うつ向いたままこちらへ振り返ってくるカレン。
 不機嫌そうに声を低く出したのは、昨夜のことがあったからだろうか。

「どこに行くのだ。案内しよう」
「け、結構でございます」

 昨日の今日だ。
 警戒されて当然のこと。

「ほう、王子の親切を無下にするとは、なかなか肝の座った娘だ」
「そっ、それは昨夜グレイス様が……っ!」

 キッと睨みつけるような眼光を覚悟していたのに、グレイスを見上げてきたカレンは、視線を交わすなり顔をぼっと赤らめてしまった。

「……」

 想定外の反応に、グレイスは一瞬瞬きを忘れる。
 風を切るような速さで目を逸らされ、うつ向いたカレンの耳は真っ赤に染まっていた。

 ――昨夜のことでも思い出したのか。

 強気な態度を見せたわりに意外と初い娘だと、またしても胸の一部がくすぐったく感じた。
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