冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 両手で口を押さえても、零れてしまった言葉はなかったことにはならない。

「もっ、申し訳ございません! わたくしなんてことを……っ」
「素敵だと、思うか? この罪にまみれた想いを」

 お叱りを受けるかと思いきや、グレイスは目を細めてふわりと微笑えむ。

「そんなことを言う者がいるとは思わなかったな。イアンはあからさまに不快な顔をしたというのに」

 グレイス自身、充分にわかっているのだ。
 自分の想いが、決して許されるものではないということを。

「おかしな娘だ。けれど……」

 深く溜め息を吐いたグレイスは、それまでで一番穏やかに笑顔を浮かべる。

「誰かたった一人でも、この想いを肯定してくれる者がいるということが、こんなにも心を軽くするものだとはな」

 その笑顔に、フィリーナは下唇を噛みしめてしまう。
 そうでもしなければ、締めつけられた胸の奥から、涙が押し出されてしまいそうだったから。
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