冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ――ああやはり、そんなことだろうと思った。

 じっと遠くを見つめたまま固まるカレンに数歩で追いつくと、その視線を辿ったその先には、思っていた通り、ディオンとフィリーナの姿を捉えることができた。
 こちらの気配に気づかない二人。
 丸い屋根の下の椅子に座るディオンの膝の上で、横抱きに抱えられたフィリーナが熱い口づけをもらっているところだった。

「どうした? 呼びに行かなくていいのか?」

 真っ赤な顔で固まっているカレンに、グレイスは控えていたはずの意地悪を口にした。
 ぎぎ、とぎこちなく顔を向けてくるカレンは、涙目でグレイスを睨む。

「ご存じ、だったのですか……」
「何がだ? 僕は親切に案内をしたまでだ」

 その通りだとぐうの音も出せずに、踵を返すカレンの後をついて行くグレイス。 

「よかったのか? 母が呼んでいるのだろう?」
「あとに、します……」

 うつ向き薔薇園を出ていくカレン。
 たしかに他人が見て気分の良くなるようなものではない光景だけれど、カレンの初い反応はまたグレイスの胸をむずむずとくすぐった。
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