冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 密なる雰囲気を他人に見られる羞恥くらいは、経験のないカレンでも想像できる。
 いや経験なら、もう昨夜済んでしまったのだけれど……。

 こちらの存在に気づかれれば、二人が赤っ恥をかくのは目に見えている。
 彼らの様子をおそらく知っていたであろうグレイスは、それでも二人をそっとしておこうという気づかいは持っていたらしかった。

 呆れた溜め息を吐くグレイスの、初めてじっくりと間近に見る美麗な顔に、カレンの胸はそれまでとは違う鼓動を大きく響かせた。
 綺麗な掌に塞がれている口元が、昨夜の感触を思い出す。
 じっと見下ろしてくる碧い瞳に、カレンの心は吸い上げられてしまいそうだ。

「申し訳、ございません……」

 カレンの瞳の潤み方が変わったことをグレイスは見抜く。
 小さな口唇を掌から解放し、緑の生け垣の木陰で華奢な腰を引き寄せた。
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