冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 迷子のようにさ迷っていたかと思えば、弱々しかった瞳は急に鋭さを持つ。
 姉と同じように強い意志を持っているくせに、初い心はたやすく顔を赤く染める。
 ころころと変わるカレンの表情に、グレイスは驚きと静かな高ぶりを自分の中に認めた。
 まだ見ていない表情がどこかに隠されているのではないかと、興味は増すばかりだった。 

「無知なお前には、僕が何から何まで教えてやろう」

 長い指でカレンの顎を優しく持ち上げる。
 もう抵抗の意思など微塵も見せないカレン。
 グレイスは小さく微笑み、角度をつけて顔を近づけると、まろやかな声で甘く囁いた。

 「まず、男女が口づけを交わすとき、……瞼は閉じるんだよ、カレン」

 薔薇達を撫ぜる風が、甘い香りを乗せて二人のそばで踊る。
 隙間の空いていた心にも、柔らかく吹き込んでくる風に、グレイスは心地良さを感じていた。





.
< 364 / 365 >

この作品をシェア

pagetop