冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「お辛いのですね……」
「僕がお前を愛することができれば、こんな胸の切り裂かれるような痛みを味わうことなんてなかったのかもしれないな」
「グレイス様……?」
「フィリーナ」
煌めく碧い瞳の中に、自分の姿が見える。
降り注いでくる苦しみを全部吸い取ってあげることができればどんなにいいかと、胸が苦しくなる。
突然ぐっと腰が引かれ、グレイスはフィリーナを抱きしめた。
当然にフィリーナの心臓は大きく脈を打ち、頭は慌てだす。
「ぐ、グレイス様、あの……っ」
「フィリーナ……お前に、頼みがある」
緊張する身体を密着させたまま、まろやかな声が低く耳元で囁いた。
イアンのいる場所から、こちら側が見えているのではないだろうかと羞恥に慌てふためく。
混乱を落ち着けようと違うことを考えようとすると、フィリーナの顎を掬い上げたグレイスは、鼻先の触れる近さで口を開いた。