冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 王宮の外に出ると、いななく馬が十頭近く、それぞれにたくさんの荷物を積んだ荷車を繋がれ、美しい前庭の奥、正門前で隊列を整えていた。
 お客人をお迎えするときとは違い、使用人は門扉の前でお見送りをする。
 黒馬の手綱を引き、隊の最前列へ向かうディオン王太子と、横並びにグレイスが話をしているのが見えた。

 少し曇りがちの空の下でも、見目麗しい二人の王子は、どこまでも絵になる。
 けれど、使用人の列に並ぶフィリーナは、眩い光景に悠長に浸る余裕はなかった。
 二人が普段と変わらず接していることに、嫌な汗が背中を伝う。
 懐の小さな包みが、やけに重く感じた。

 “肌身離さず持っておくんだよ”と、耳を舐るように囁いたまろやかな声を思い出し、頬を熱くする。
 嫌だと拒否をさせず、甘いいざないに溺れかけていることは、自覚していた。
 だけど、客観的な自分が、まだかろうじてフィリーナの良心を引き止めていた。
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