冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「すぐ隣の国だから心配はいらないだろうけれど、道中気をつけて」
「ああ。お前も留守は頼んだ」
「御意に」
思い出していた声と同じものが聴こえて、フィリーナは顔を上げる。
「レティシアに、よろしく」
胸に片掌を当てたグレイスが、敬礼から直り口にした名前に、心臓がぎゅっと息苦しく掴まれた。
――“僕が行っても構わないけれど”
数日前に、グレイスが率先して隣国へ出向こうと言っていたことを思い出した。
レティシア姫のことが気がかりで、仕方ないのだと今になってわかった。
「いってらっしゃいませ!!」
一斉にお見送りの言葉をかける使用人の間を、黒馬にまたがったディオン王太子が先頭を切って出発する。
大きく開かれた門扉の外へ、荷馬車が威勢よく出て行った。
息苦しい胸元を手でぐっと掴む。
どうなるのか想像する恐怖を抑えようとしていると、
「フィリーナ」
王宮へ戻っていく使用人に逆行して、グレイスが神妙な面持ちで近づいて来た。
「ああ。お前も留守は頼んだ」
「御意に」
思い出していた声と同じものが聴こえて、フィリーナは顔を上げる。
「レティシアに、よろしく」
胸に片掌を当てたグレイスが、敬礼から直り口にした名前に、心臓がぎゅっと息苦しく掴まれた。
――“僕が行っても構わないけれど”
数日前に、グレイスが率先して隣国へ出向こうと言っていたことを思い出した。
レティシア姫のことが気がかりで、仕方ないのだと今になってわかった。
「いってらっしゃいませ!!」
一斉にお見送りの言葉をかける使用人の間を、黒馬にまたがったディオン王太子が先頭を切って出発する。
大きく開かれた門扉の外へ、荷馬車が威勢よく出て行った。
息苦しい胸元を手でぐっと掴む。
どうなるのか想像する恐怖を抑えようとしていると、
「フィリーナ」
王宮へ戻っていく使用人に逆行して、グレイスが神妙な面持ちで近づいて来た。