冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「フィリーナ」
王宮へ戻っていく使用人に逆行して、グレイスが神妙な面持ちで近づいて来た。
「は、はいっ」
「話がある、あとで部屋に来れるか」
「はい……」
見上げた碧い瞳は、少し苦しそうに見えた。
今回ディオン王太子が大量の物資を持って隣国ヴィエンツェに出向くのは、国内の情勢が著しく不安定になってきているからだ。
ディオン王太子とレティシア姫の婚姻も、ヴィエンツェ国への支援が贔屓的なものではないということを近隣諸国に示し、角が立たないようにするためなのだ。
――本当に、お国のための結婚なんだわ……
グレイスの気持ちを知っている今、微笑ましく思っていた二人の結婚は、手を叩いて無邪気に喜ぶことができなくなってしまった。
王宮に戻っていくグレイスの後ろ姿が、痛いほど胸に沁みる。
本当は、自身が隣国へと向かい、混乱し始めているらしい国の情勢から、レティシア姫を守り安心させてあげたかったはずだ。
フィリーナには、グレイスがどれだけレティシア姫を想っているのかが痛いほどわかる。
フィリーナ自身の心の端っこ部分が痛み、それは少し前から、誤魔化せないほどに大きくなってきていた。
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王宮へ戻っていく使用人に逆行して、グレイスが神妙な面持ちで近づいて来た。
「は、はいっ」
「話がある、あとで部屋に来れるか」
「はい……」
見上げた碧い瞳は、少し苦しそうに見えた。
今回ディオン王太子が大量の物資を持って隣国ヴィエンツェに出向くのは、国内の情勢が著しく不安定になってきているからだ。
ディオン王太子とレティシア姫の婚姻も、ヴィエンツェ国への支援が贔屓的なものではないということを近隣諸国に示し、角が立たないようにするためなのだ。
――本当に、お国のための結婚なんだわ……
グレイスの気持ちを知っている今、微笑ましく思っていた二人の結婚は、手を叩いて無邪気に喜ぶことができなくなってしまった。
王宮に戻っていくグレイスの後ろ姿が、痛いほど胸に沁みる。
本当は、自身が隣国へと向かい、混乱し始めているらしい国の情勢から、レティシア姫を守り安心させてあげたかったはずだ。
フィリーナには、グレイスがどれだけレティシア姫を想っているのかが痛いほどわかる。
フィリーナ自身の心の端っこ部分が痛み、それは少し前から、誤魔化せないほどに大きくなってきていた。
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