冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*


 窓に映える夕焼けを横目に扉を叩くと、部屋の中からすぐに、まろやかな声が返事をした。

「失礼いたします」と部屋に入るなり、いつもなら窓際でフィリーナを迎え入れるはずのグレイスは、一歩部屋に入ったフィリーナの目の前に立っていた。
 驚き見開くフィリーナの目には、苦しそうな碧い瞳が映る。
 途端に強く抱き寄せられて、さらに驚いた。

「ぐ、グレイス様……っ!?」

 こんな風に力強く抱きしめられたのは初めてで、ぐるぐると目が回りそうだ。

「フィリーナ……」

 低く呼ばれたかと思うと、腰を引き私を覗き込むグレイスは、目元を歪めたまま口唇を合わせてきた。

 ――あ、また……こんな……

 柔らかく舐られる口唇に、破裂しそうな心臓。
 呼吸もままならなくなる口づけから解放され、肩で息をしていると、碧い瞳が間近でフィリーナを見つめてきた。

「……状況が、変わった。
 お前に託したあれを、今度の晩餐会の夜までに頼めるか」
< 64 / 365 >

この作品をシェア

pagetop