冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「相変わらずお美しいですね」
「ありがとうございます」
「兄が待ちかねておりました」
「ええ、あたくしもお会いしたかったわ」

 こちらへ、と案内をするグレイス王子に続いて、レティシア姫の長く艶やかな黒髪が揺れる。

「グレイス様は、今日はどのようなご予定が?」
「私はこれから乗馬にでも出ようかと思っていたところです」
「そうですの。いつかあたくしもご一緒できるかしら」
「そうですね、兄に相談しておきます」

 雑談を交わしながらカーペットの行きつく先の中央階段を昇っていく、見目麗しき高貴な人の姿。
 後ろ姿すら美しいと、フィリーナはときめきに膨らむ胸からほうと感嘆の溜め息を吐いた。
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