冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「君とは、好き合っている仲なのかと思っていたのだが、私の一人合点だったか」

 ――す、き……?……

 一瞬興味を見せたようなディオン王太子は、急にそれを失ったように語気から感情を消す。
 けれど、フィリーナの胸は、その言葉の一つに過剰に反応する。

 ――私、好き、なの?
 グレイス様のこと……

 そう思った途端に、かっと顔が真っ赤に燃える。
 はっきりとした言葉を胸に突きつけると、自分でも驚くほどぴったりと、気持ちの枠にその言葉が当てはまった。

 だけど、気づいた瞬間に、せっかく生まれた恋心は、行き場なく彷徨う。
 どこにも受け止められない心が、無情にもこの場で砕け散った。
 決して実ることのない想いは、生まれた途端に散り行くことを決められてしまっていたのだ。

「グレイス様には、心から想っている方がいらっしゃるので……わたくしなんかではとても……」

 初めて自分の中に認めた気持ちが、ずきずきと心を痛めつける。
 胸元が息苦しくて、漆黒の瞳から視線を落としてしまった。
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