冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「君はあれを、君が一人で起こした不手際だとでも言うだろう」

 優しく感じていた目元が、不意に真剣な色に変わる。

「察するに、あれには何かが入れられていた。おそらく、身体に害を与えるものだ」
「……っ!」

 息を飲むフィリーナを見て、ディオンはふっと息を吐いた。

「やはりそうか」

しまったと思っても、あとの祭り。

「君はそれを誰かに頼まれたのかもしれない。君が私の命を狙う理由が見当たらないからな。
 もしそうなら、君はその誰かが不利になるようなことは、言わないはずだ。
 それに、話してしまえば、君自身に危険が及ぶ可能性もある。
 いや、あるいはもうすでに――……」

 見上げるフィリーナの瞳に落ちてくる真っ直ぐな視線。
 ディオンの瞳は、目の前のものだけではなく、そのずっと先を見据えているようだ。

「私は常に命を狙われる身だと思っている。私が国王の座に就くのを快く思わない者は少なからずいるからな。
 だが、君は、私のような危険を背負う身であってはいけない。ごく普通の慎ましくも幸せな人生を送るべきだ。

 ……言っている意味が、わかるか?」
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