黒き魔物にくちづけを

***



「座ってちょうだい。今お茶を入れるわ。大したものがなくてごめんなさいね」

屋敷の、居間にて。セレステとハウエルを招き入れた彼女は、二人に暖炉の前のソファをすすめた。

話が長くなると踏んだ彼女は、外でいつまでも立ったままだと互いに凍えてしまうだろうと屋敷へあげることを決めたのだった。もっとも、この二人の来客を信用しきっていない様子のラザレスは、さっきから二人の動きに油断なく目を配って警戒をあらわにしているけれど。

「そんな、お気遣い無く……。……あ、そうだ。私たちからも、お土産があるんです」

そう言うとセレステは、肩から斜めにさげていた鞄から何かを取り出してエレノアに差し出した。茶色い紙に包まれた、両手ほどの大きさの包みだ。それを彼女が受け取──る前に、横から伸びてきたラザレスの手がそれを奪い取る。

彼は眉をよせたまま包みの裏表を確認したあと、鼻を寄せて匂いを嗅ぎ始める。ついぽかんとその様子を見守るエレノアの前で、確認が終わったらしいラザレスはようやくそれを彼女に渡した。

「……妙なものは入れていないようだな」

「ちょっと、失礼よラザレス」

やはりいつもより低い声で彼が放った言葉に、エレノアはようやく、彼が怪しいものを渡すのではないかと警戒していたのだと気が付いた。慌ててたしなめたが、幸いなことに二人とも気分を害した様子は無いらしくほっとした。

どうにも警戒が解けないラザレスに少し戸惑いつつ、こんな様子の彼を見るのは新鮮だとエレノアは感じていた。そう言えば彼女が森へ初めて来た時も、しばらく警戒している様子だったことを思い出す。……もしかして、人間自体をあまりよく思っていないのだろうか?
< 181 / 239 >

この作品をシェア

pagetop