黒き魔物にくちづけを

「いや、突然現れたんだ。警戒するのも無理はない。ちなみに中身は薬草と外傷用の軟膏と、豆と干し肉だよ」

「わ、助かるわ。ありがとう」

人の良い笑みを浮かべて説明する彼に、エレノアは礼を言った。薬はあって困ることはないし、豆と干し肉は街へ行かないとなかなか手に入らないのでありがたかったのだ。

「……ところで、先ほどの話だが」

食器棚からカップ(前の住人が使っていたものだろう。割れもせず状態も良かったので拝借している)を取り出してお茶を注いでいると、ラザレスがそう話を切り出すのが聞こえた。


「薄々勘づいているだろうが、俺は人間ではない。お前達が言うところの、【魔物】だ」


彼らの向かいのソファには座らず、部屋の端に立ったままラザレスはそう、告げた。

「……!」

二人は悲鳴こそあげなかったものの、それでも小さく息を呑んだのはわかった。

さすがに無反応というわけでもなかったが、そこまで動じた様子がないのは、やはりある程度予想していたからなのだろう。怯えや憎しみといった感情を向けられることも少しは予想していたのだが、それは見受けられなかったのでエレノアはこっそりと胸を撫で下ろした。

「魔物……本当に、そうなんですね。……私、もっと、恐ろしい外見を想像していました」

しみじみと少女が言う。どこか可愛らしくも思える感想に、エレノアはふっと表情を緩めた。

(……森へ来たばかりの頃、私もそんなことを思ったものだわ)

生贄として森へ乗り込んだ彼女が漠然とイメージしていたのは、例えば暗い洞窟の奥に住む、臭くて醜悪で恐ろしい魔物の姿だった。それが蓋を開けてみれば、人間の暮らすような屋敷に住み着く、鱗があることと瞳孔が花の形をしていること以外は普通の人間のような姿をした彼が魔物だと言うのだから、大層驚いたのだ。
< 182 / 239 >

この作品をシェア

pagetop