黒き魔物にくちづけを
魔物、と聞くと、無条件にそのような像を抱いてしまうのは何故なのだろう。その存在をほとんどの人は実際に知らないはずなのに、魔物とは恐ろしいものだという印象を実に多くの人間が抱いている。……かつてのエレノアも、その一人だったということなのだが。
「驚きましたが……。見ていると、エレノアさんのことをとても大切に思っているのが伝わります。すごく、安心しました」
「ちょ、ちょっと……」
あまりに素直な物言いをするセレステに、エレノアは思わず頬を染めた。大切に思っている、だなんて、改めて言われてしまうとどうにも気恥ずかしかった。
その一方で、彼女の旦那は全く違う角度から言葉を寄越していた。
「にわかには信じ難いな。……が、人間ではありえない鱗の散った肌や、その独特の瞳孔など否定しきれない興味深い点は確かにある。君が魔物ではないと断言することは、研究者である僕には出来ない。……うん、信じよう。君は人ならざる存在だ、きっとそうなんだね」
「……は?」
饒舌にぺらぺらと言葉を並び立てるハウエルに、ラザレスは一瞬ぽかんとし、それから怪訝な表情を浮かべる。エレノアとしてもそんな反応は予想を超えていて、彼女は思わずセレステの顔を見た。
「……あ、うちの人、研究者なんです。だからちょっと変わってるんですけど、気にしないでくださいね」
「……研究者……」
そう言えば彼女のいる薬屋は、彼の店だったと今更のように思い出す。ただ仕入れて売る薬屋ではなく、彼が作っている薬を売っているのだろうか。……今まで何の疑いもなく使っていたけれど、大丈夫だったのだろうか?
(い、いや、でも確かに効果はあるし、ちゃんとしてるわよね。大丈夫大丈夫)
思わず一瞬疑いかけたが、他ならぬエレノアが彼らの薬を使ってこの通りぴんぴんしているのだ。傷の治りも確かに良いし、ちゃんと効果はあるはず、と内心で疑ったことを謝った。