黒き魔物にくちづけを
屋敷の外に出ると、ビルドはすぐに巨大化してエレノアの前に降り立った。そして、いつもより低くなった声で告げる。

「きょう、おおきくナルのこれで3回目だから、カエリはおおきくなれるかワカラない」

そう言えばビルドの変身は無限に出来るわけでは無いのだったとエレノアは思い至った。この変身はかなりのエネルギーを消費するようで、一日に三回が限界なのだといつか言っていた。先程ビルドは暴れるラザレスを押さえるときに二度大きくなっていたから、この変身が今日最後のものになってしまうかもしれないということなのだろう。

エレノアは頷いて言った。

「分かったわ。その時は薬をあなたに渡すから、先に戻ってラザレスに飲ませてあげてくれる?私は歩いて戻るから、少し遅くなるかもって伝言もよろしくね」

歩いて戻ったら、恐らくは少しどころでは済まないほど遅くなるだろう。それでもエレノアは意思を曲げるつもりはなかった。自分のことよりも、今は毒にうなされるラザレスのことが優先だ。

「ワカッタ。えーのあ、ごめんね」

「ううん、こちらこそわがまま言ってごめんなさい。ありがとう」

「どういたしまして!じゃあ、ハヤクつかまって!」

地面を蹴って羽搏きながら、ビルドがそう言う。エレノアは、空中に浮き上がったカラスが差し出した脚に両肩を掴ませて、その爪を両の手でしっかりと掴んだ。

ばさりという振動が伝わってきて、それと同時にエレノアの爪先が地面から浮かび上がる。いつの間にか慣れたその感覚を味わいながら、彼女は目的地に向けて迷いの無い瞳を向けた。



***



例のごとく街近くの木立の陰に降ろされた彼女は、すぐに街への道を駆けた。幸いにして陽の光はまだ差しているから、急げばまだ明るいうちに帰れるだろう。

けれど街の入り口くぐった瞬間、エレノアは小さな違和感に襲われた。
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