次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
長い指がプリシラの頬にそっと触れる。プリシラはびくりと体をこわばらせた。
ディルは不思議そうに首をかしげた。
「あのとき、一度きりにはしないって約束しただろ。忘れたか?」
プリシラはふるふると首を振る。
「覚えてるわ。けど、あのときは必死で。こうやって日常に戻ると、やっぱり恥ずかしくて」
「俺に触られるのは嫌か?」
プリシラは弾かれたように顔をあげ、ディルを見た。視線が絡み合う。ディルの瞳は熱っぽく、見つめられただけで心臓が射抜かれたようにぎゅっとなる。
「……嫌なわけない。ドキドキして、嬉しくて、幸せよ。けど、自信がないの。私ばっかり、溺れてしまいそうで」
経験豊富なディルと違って、プリシラは未熟だ。こんな自分でいいのか、不安でたまらない。
ディルはふっと笑ったかと思うと、プリシラを勢いよく横抱きにした。
「きゃっ」
「教えてやろうか?」
ディルはお姫様抱っこのまま、プリシラをベッドまで運ぶと、少し強引に押し倒した。
「この瞳も、この髪も、白い肌も、爪の先までも、すべてが俺を喜ばすために存在してるんじゃないかと思うほどだ」
ディルは瞳に、髪に、順々にキスを落としていく。ディルの唇が通ったところから、プリシラの体に火がついていく。
「溺れきっているのは俺の方だろ。けど、お前で溺れ死ぬなら本望だ」
「うそ……」
そんなことない。ディルの視線ひとつで、指先がかすかに触れただけで、プリシラはこんなにも乱れていく。ディルのすべてがプリシラを狂わせる。先に溺れ死ぬのは、きっと自分の方だ。

狂おしいほど甘い夜は、いつまで経っても終わりが見えなかった。
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