次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ディル、ディルってば」
かすかな衣ずれの音と、愛しい女の甘い声でディルは目を覚ました。
「ん?プリシラ、もう起きたのか?」
見れば、上半身を起こしたプリシラは体にシーツを巻きつけている。いまさらなにを恥ずかしがるのが、ディルには理解しがたい女心だ。
「もうじゃないと思うわ。すでにお昼に近い時間よ」
「別にいいだろ。もう少しゆっくり……」
プリシラの腕を取り、ベッドに引きずりこもうとする。が、敵はそれを必死に阻止しようとしてくる。
「ほら、今日こそ政治とか外交問題とか教えてくれる約束だったでしょ」
「……また明日な」
「その台詞、昨日も一昨日も聞いたわ。新国王が即位早々にこんな生活してちゃダメよ」
「なにか問題があれば口うるさいターナが飛んでくるさ。こないってことは、これが最重要の公務ってことだ」
「公務って……ただ、ダラダラと、その……」
プリシラの顔がみるみる赤くなっていく。
「世継ぎを残すのは、王の一番大事な仕事だろ」
言いながらディルは、プリシラの体を隠す無粋な布を剥ぎ取っていく。
鎖骨に、胸元に、唇を寄せれば、あっという間に彼女の体は可愛らしい反応を見せる。
「もうっ。ダメだってば」
「お前のダメは逆の意味だろ。この数日でよくわかったよ」
「ち、違うわよ。ディルの馬鹿〜」
慌てふためくプリシラを眺めながら、ディルは笑った。
「長い間、さんざん我慢させられてきたんだ。数日で満足なんてあるわけないだろ。あきらめて、覚悟を決めるんだな」

生涯でたったひとつ、初めて、欲しいと思ったもの。それがプリシラだった。
彼女の心も体もようやく手に入れて、これ以上ないほど満たされているというのに……。
まだ足りない。もっともっと欲しいと思ってしまう。

「意外と強欲だったんだな、俺は」

fin

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