次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「なんだよ、話って‥‥」
ディルはいつも通りの、少しぶっきらぼうな態度でプリシラを見やった。誰に対しても柔和で礼儀正しい、理想的な王子と讃えられる兄フレッドとは異なり、ディルは王子らしからぬ粗野なところがあった。優美な外見に似合わず、口も悪い。そんな対照的な二人の王子を揶揄する、白王子・黒王子などという渾名は庶民の間にまですっかり浸透してしまっていた。
ひねくれ者の黒王子、ディル。けれど‥‥飼っていた猫が死んでしまったとき、ダンスの教師に厳しく叱られたとき。そんなとき、プリシラにそっと寄り添い慰めてくれるのはいつだって彼だった。ディルの不器用な優しさに心を揺さぶられる。彼に恋をしている、そう確信したのはいつのことだったろうか。
そして、彼もまた自分を想ってくれているのでは‥‥そんな甘い予感に胸をときめかせるようになったのは、いつからだったか。
プリシラははやる心をなんとか落ち着かせようと、大きく息を吸い込んだ。
「どうした?」
その時、ふいにディルがプリシラの顔をのぞきこむようにして視線を合わせた。
神秘的な色合いの瞳は吸い込まれそうに深い。せっかく落ち着けたはずの心臓がまたうるさく騒ぎ立てる。
「あっ、あのね‥‥ディルに渡したいものがあって。この前、お父様がスワナ公国に行ったときにお土産に買ってきてくれたものなのだけど」
スワナ公国はミレイア王国の西方に位置する小さな国だが良質な鉱石の産出国として有名だった。特に宝石は素晴らしく、近隣諸国の王侯貴族が競うように買い漁っていた。
プリシラの父、ロベルト公爵も御多分に洩れずスワナ公国産の宝石を可愛い娘にプレゼントしてくれたのだ。
プリシラをその品を初めて見た瞬間に、ディルへの贈り物にしようと決めた。もちろん父には内緒で‥‥だったが。
首飾りにするか腕輪にするかあれこれと思い悩んだ末に、やはり一番気持ちが伝わるであろう指輪にすることに決めた。公爵家御用達の職人にこっそり頼みこんで、素晴らしい品に仕上げてもらったのだ。
プリシラは大切に握り締めていた手の中の木箱をディルに差し出す。ディルはそれを受け取ると不思議そうに首をかしげた。
「公爵からの土産物を俺に? なんで、また?」
「開けてみてくれる?そしたら、きっとわかるから」
プリシラのやけに真剣な表情に押されて、ディルはその小さな箱を開けた。
地金は銀でシンプルだが美しい彫りが施されている。真ん中に輝く宝石はペリドットだろう。大粒で、澄んだ明るい碧色をしている。それは、たった今ディルの目の前で頬を紅潮させているプリシラの瞳と同じ色だ。





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