次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
2、望まない、望まれない婚姻
プリシラはふぅと小さく息を吐いた。なんだか、このところため息ばかりついているような気がする。
「昨夜はよく眠れなかったのですか?顔色があまり優れないように見えますが」
リズが心配そうに顔をのぞきこんでくるので、プリシラはあわてて笑顔を作った。
「いいえ、ぐっすり眠れたわ。リズの淹れてくれるお茶を飲むとよく眠れるの。いつもありがとう」
ぐっすり眠れたというのは嘘だけれど、リズのお茶に癒されているのは本当だ。
まだ短い付き合いだけれど、リズはよく気のつく優秀な侍女だ。
いまも、長すぎて扱いの難しいプリシラの髪を手際よく編み上げてくれている。
「リズは本当に器用ね。実家で世話をしてくれていた子は私の髪は手に負えないって投げ出していたのよ」
ロベルト公爵家でプリシラの身の回りの世話をしてくれていたのはアナだったが、うまく結べないからと言っていつもリボンをかけるだけの髪型にされていた。
公式な席に出るときにはローザが髪を結い上げてくれたものだった。ふたりが懐かしく、恋しかった。

(ダメね。実家を出てまだ三ヶ月なのに、もうホームシックだなんて)

「その方の気持ちもよくわかります。プリシラ様の髪はサラサラすぎてしまって、結うのが難しいんです。でも、本当に美しい御髪ですわ。見てください、今日のドレスにもよく映えます」
リズに促され、プリシラは姿見の前に立った。今日のドレスは初夏にふさわしい涼しげなミントグリーン。たしかにプリシラの淡い金髪によく似合っている。

だが、一体なんのために自分は着飾っているのだろうか。
美しいドレスを身につけ、髪を整え、化粧をほどこす。すればするほどに、虚しい気持ちになっていく。

あのパーティーの夜からもう三ヶ月。いまだにフレッドの消息はつかめていない。
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