次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
プリシラの瞳にもっとも近い色合いの石はペリドットだが、エメラルドのほうが宝石としては格が上だ。王太子が身につけるのだから、より高価なものを。エメラルドが選ばれたのは、ただそれだけの理由だろう。だが、プリシラにとってはありがたい配慮となった。

(要らないとつき返されたものを、また贈るなんて、あまりにも惨めだものね)


「さぁ、本当にもう寝てしまおう」と、プリシラはソファから立ち上がった。天蓋つきの巨大なベッドはひとりで眠るには大きすぎるが、仕方ない。

その時、かちりとノブの回る小さな音がした。ノックもなしにこの部屋を開けることが許される人物など、ひとりしかいない。ドクン、ドクンと胸が早鐘を打つ。信じられないほど、その速度はあがっていく。

「なんだ。起きてたのか」
ディルはあっけらかんと言った。新婚初夜の妻に待ちぼうけをくらわせたことなど、何とも思っていないようだ。

(なによ、もうっ。私ばっかり‥‥)
恐怖と緊張、様々な感情でプリシラの心は乱れていた。そんな自分とは対照的に、いつもと変わらない顔をしているディルが憎らしい。

(こればっかりは‥‥悔しいけど、経験値の差かしら。遊び慣れてるディルが余裕なのは当然よね)

「いま寝ようと思ってたところよ」
プリシラは言いながら、ディルに背を向けた。口調だけは平静を装ってみたが、顔は見られたくない。

「ふぅん。待っててくれた訳じゃないのか」
背中ごしに届くディルの声がやけに艶っぽく感じるのは、気のせいだろうか。
「ち、違うわよ。本を読んでいたの。けど、もう眠くなったから‥‥」
プリシラはそそくさとベッドへ向かおうとするが、よく足元を見ていなかったせいで、つまづいてしまった。
「きゃっーー」




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