次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
その時、プリシラより一足遅れて、ディルが部屋に入ってきた。
「参った‥‥」
お姫様たちの相手はよほど大変だったのだろうか。心なしか、顔がやつれている。ディルはタイを外し、上着を脱ぐと、そのままベッドに倒れこんだ。
「おつかれさま。すっかり懐かれたわね」
プリシラはドレッサーの前で髪を梳かしながら、ディルに労いの言葉をかけた。
「あの年頃の女の子はすごいな。子どもの厄介さと女の面倒さを併せ持ってる」
長女のエリー姫のことだろう。ディルをここまで振り回すなんて、大物だ。将来は魔性の女になるかもしれない。
「そんな顔しないで、王子様に徹してあげてよ。女の子にとって、初恋の思い出は大切だもの」
「そんなものか?」
「そうよ。私もウィリアム先生に初めて会ったときのこと、よく覚えてるもの」
「誰だよ、ウィリアムって」
「ピアノの先生だった人よ。お父様と同じ年だったのに、お父様とは全然違うの。スマートで若々しくて、憧れたわ」
「それがお前の初恋?」
「うーん、どうかしら。多分‥‥」
「なんだ。いい加減じゃないか」
ディルは呆れたように笑う。
(あれは恋に恋してたって言うほうが正しいのかも。だって、私の初恋は‥‥)
ふいに少年時代のディルが脳裏に浮かんできた。プリシラは慌てて、それを打ち消す。
「あっ。そういえば、ディルの初恋っていつごろ?どんな人だった?」
幼いころは、ディルも自分を思ってくれているはずと能天気に信じていたけれど、今はそれがただの思い込みだったと理解している。
ディルの初恋の相手はどんな女性だったのだろう。


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