次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「もし、フレッドが戻ってきたら?」
「私はあなたと添い遂げると誓ったのよ。あなたがたとえ王にならなくとも、それは変わらない」
濃密に視線が絡み合う。けれど、愛し合う男女の甘やかさはない。まるで決闘を前にして向かい合う敵同士のようだ。
プリシラの手首をおさえていたディルの指先に力がこもる。もう逃がさないというように、ぎゅっと締めつける。
「そうか。ーーなら、もう我慢はやめる」
ディルの声はよりいっそう低くなり、プリシラは背筋がぞくりと震えるのを感じた。
ディルの顔がゆっくりとおりてきて、プリシラの鎖骨あたりを軽く食む。その次は首筋、次は耳だ。
獰猛な獣のような目つきをしているくせに、プリシラに触れる唇は驚くほど優しい。それはプリシラの頬をつたい、とうとう赤く色づく唇をとらえようとしていた。唇の端をかすめた、その瞬間、プリシラは耐えきれずに小さく叫んだ。
「ひゃ、やぁっ」
その声は自分でも恥ずかしくなるほどに甘く響いた。
「そういう声は初めてだな。もう少し聞かせてくれ」
ディルは楽しげに言うと、にやりと笑ってみせた。プリシラの反応を楽しんでるのだろう。自分よりはるかに余裕があるのだ。プリシラはそれが無性に悔しくて、ぷいっと顔を横に向けた。
「‥‥唇はお預けってことか?いまのはキスとも呼べないと思うが」
「‥‥唇だけじゃなくぜんぶお預けよ。大事な話をしようとしてたのに」
恥ずかしさをごまかしたくて、プリシラはわざと拗ねてみせた。本当はわかっている。きっとこのまま、ディルにすべてを委ねてしまったほうがいいのだろう。
こういうことには勢いも必要だし、憎まれ口をたたくばかりで、なかなか甘い雰囲気にならない自分たちには尚のことだ。わかっているけど‥‥素直になれない。

(下手に付き合いが長いと、こういうとき厄介だわ)








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