パーフェクト・インパーフェクト
「バンドを選んだことについて、彼はきっと本当に後悔していないと思います。でもそんなに簡単に割りきれることじゃない。生まれ育った家ですから、じゃあここでおしまい、というふうなわけにもいかないんです。特に、気持ちの面においては、整理がつくまでに彼は相当な時間がかかりました。想像もできないような甚大な不安もあったと思います」
まるでその様子を見ていたような言い方。
ううん、実際にそうなのだ、
きっとこの人は、いちばん近くで見ていたのだ。
彼のいちばん辛かった時期を支えていたのは、間違いなく、この人だ。
うらやましさと嫉妬が入り混じった、場違いな気持ちがこみ上がる。
「わたしは彼に一度だけ、ついていきたいと伝えました。それはできないと断られました。わたしが彼についていくというのは、わたしが自分の家族と縁を切るということと同義であることを、彼は知っていたんですね。だからできない、と」
衣美梨さんの親御さんは、一人娘の彼女をとても大切に育て上げてくれたらしい。
当時まだ無名の、なんの保証もないバンドマンについていくことなど、到底許されるようなことではなかった、と。
「最後はわざと冷たく言われました。『世間知らずなお嬢さんを抱えて行けるわけがない』。いまでも一言一句覚えています、本当にショックだったから。でも、あれは彼の最大限の優しさでした。いま思えば、あのころのわたしには、両親を捨て置いて彼についていく勇気なんて、微塵もなかったはずなんです」