冷徹副社長と甘やかし同棲生活
 
「いってきます……」


 外に出ようとしたとき、母さんのとは違う重い足音が聞こえてきた。
 振り返ると、調理服姿の父さんと目があった。相変わらず無表情だ。


「これを持っていけ」


 手渡されたのは、“海塩”とかかれた小さな小瓶。いつも店で使っている塩だ。


「この塩じゃないとうちの味は出せないだろう」


「うん、そうだね」


 初めて家を出る娘への贈り物が塩だなんて、なんとも父さんらしい。
 隣で母さんが「もっと他にあるでしょう」と文句を言っていたのがまた面白くて、思わず笑ってしまった。


 あったかくて、少しだけ切ない気持ちが胸を埋め尽くす。涙が出そうになったけどぐっとこらえて、笑顔で家を出た。
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