さよならメランコリー
だめだよ、カナちゃん。 ほら、こんなところにとびきりのお手本がいるのに。こうするんだよ、作り笑いって。こうやるんだよ、人を騙すのって。

何も知らないふりして、全部を押し殺して、笑うの。 正直になっちゃだめだよ、カナちゃん。


「うん、おいしいよトウカ。 あ、でもちょっと私には……え、どうしたの?」


カナちゃんが私を見てぎょっとする。


「どうしたのってなにが? ……それよりよかったあ〜!おいしいって言ってくれて!」


毒入りだよ、それ。 私のカナちゃんに対する真っ黒な気持ちが、いっぱいいっぱい混ぜ込んであるの。死んじゃうかもよ、カナちゃん。苦しくなって、コウキくんに気持ちなんて伝えないまま、私の思い通りにーー。


「……吐いて」

「え」

「吐いて、カナちゃ……」


食べかけのロールケーキを取り上げようと手を伸ばしたそのとき、頭の上から降ってきた声が私をはっとさせる。


「おいしそうなもん食ってんじゃん」

「ひゃっ、コ、コウキくん⁉︎」


廊下側の席に座っていた私たちのすぐ横の窓から顔を出した彼が、「俺はおばけかよー」とけらけら笑っている。

電話とはまた少し違って聞こえる笑い声に、どきりとすると同時に少しの息苦しさを覚える。昨日の電話を思い出してしまったのかもしれない。


「……もうー! 驚かさないでよコウキくん!」


伸ばした手を下ろして、私は彼に今日いちばんのはずの笑顔を向ける。
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