さよならメランコリー
彼女がつまらなさそうにするのは当然だ。 だって、好きな人が仮にも恋敵を褒めて、自分をからかったりなんかしたらそんなのおもしろくないに決まってる。

対して私は、それが嬉しくてたまらないわけだけれど。


「あ。コウキくん、そろそろ行かないとチャイム鳴るよー」


ほら、と黒板の上に掛けられた時計を指差す。本鈴がなるまであと数分だ。


「うわっ、早く言えよなトウカー」

「いま気付いたんです〜、ほら早く戻りなよっ」

「へーへー戻りますよーっと。 その前にカナ、なんか知らねえけど元気だせよ」


ちらりと一瞬だけ向けた表情が、私と話していたこの数分間よりもずっとずっと柔らかくて。 ぎうう、と胸が苦しくなるのを得意の作り笑いで必死に隠そうとする。

だけど、自分でもわかってしまうくらいに上手く笑えない。いま、私はどれほど痛々しい顔をしているんだろう。きっと見ていられないくらいひどい顔だ。

だけどいまこの瞬間、そんな私に気付いている人なんてひとりもいなかった。 目の前の彼も、となりの彼女も。すぐそばに私がいるっていうのに、お互いのことしか見えてないみたいだ。……やめてよ、一瞬のことだって気に食わない。


「ほらっ早く戻って!」

「はいはい」


慌てて二人の間に割り込むと、彼の瞳に私が映ってほっとする。 ……でも、今のはちょっとあからさますぎたかもしれない。鬱陶しく思われていたらどうしよう。
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