さよならメランコリー
「じゃーな、カナもトウカも」


だけどそんな不安を無視して、いつも通りの笑顔が返ってきたことに安心する。コウキくんの優しい声や意地悪な笑顔は、精神安定剤みたいだ。私を落ち着かせて、ささくれた心を穏やかにしてくれる。

そんなことを思っていると、やっと自分の教室へ戻ろうとしたコウキくんがなにかを思い出したように引き返してきた。


「どうしたの? ほんとに遅刻しちゃうよ」

「トウカちょっと耳かして」

「へ……」

「ほら早く、遅刻する遅刻する」


瞬間、大きな手のひらが私の手首を包む。その温かさにときめく暇もなく、ふ、と耳に吐息が触れた。あまりにも近くに感じる熱に、血液が沸騰するのを感じる。


「えっ、な、なに、えっ」

「あのさ、お願いがあるんだけど」


誰にも聞こえないようにと囁く声が、脳を揺さぶって。気を緩めたら、腰が抜けてしまいそうだった。

ほらまた、息が触れる。


「今週の日曜日、付き合ってくれない?」


……今、なんて? 思いもしなかった言葉が飛び出てきて、理解が追いつかない。今週の日曜日……ツキアッテクレナイ?

なにかの冗談?聞き間違い? 恐る恐る目線を移せば、心臓に悪い距離に、とても冗談を言っているとは思えないコウキくんがいた。


「……それは、私と、ふたりってことでいいの?」


他の誰かと……カナちゃんと一緒じゃなくて、私と? 私だけを誘ってくれてるの?
< 14 / 34 >

この作品をシェア

pagetop