その件は結婚してからでもいいでしょうか
ドアを開けると、シンと静まり返った部屋。
美穂子は玄関でそっと靴を脱ぐと、明かりをつけずに部屋へと入った。
なるべく音を立てないように、こっそりこっそり。
作業場のなかはすっかり冷えていた。さっきまでの人がいたときとは、比べ物にならないくらい寒い。
美穂子は腕で体を抱きしめた。早く毛布が欲しい。
作業場右手の部屋が、資料室兼仮眠室。ソファベッドが一つに、まくら。壁の本棚には、デザイン集やポーズ集などの資料が並べられている。
美穂子は真っ暗な中、ベッドに転がった。毛布をぐるぐる自分に巻く。
でも寒い。エアコンをつけたいけど、桜先生にこっそり寝泊まりしてることがばれたら、クビにされてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたかった。
美穂子は震えながら、ベッドで身を縮める。そっとカーテンの隙間から、目黒の空を見上げた。
まっくろ。
わたしの未来もまっくろだわ。
とりあえず眠らなくちゃ。
美穂子はぎゅっと目を閉じた。しばらく寒くて眠れなかったけれど、いつのまにかウトウトし始める。
そして夢を見た。
自分が学生に戻って、悠馬くんと同じクラスにいるという神設定。
悠馬くんはクラスの中でもダントツにキラキラしていて、美穂子はただ眺めるだけ。
でもそれでもいいし。
めちゃ、ときめくし。
ああ、幸せ。
突然、パチンと部屋の明かりがついた。