その件は結婚してからでもいいでしょうか

今のはなんだ?

キッチンに立ちながら、美穂子は首をひねる。

断じて、漫画で言うところの「胸キュン」ではない。だって、先生には今、嫌悪しかない。いや、尊敬はもちろんあるけれど、それって「胸キュン」直結じゃないよね?

そもそも。

美穂子は振り返る。

ソファに依然として寝っ転がっている先生をみた。

ソファから長い足がはみ出しちゃってる。足の裏とか、こっちに見せないでほしいんですけど。

ほら!
アレのこと、かっこいいとか全然思ってないよね、わたし。
だいたい、三次元だもの。生えきった毛をパラパラ床に落として歩いてるし。掃除してるのわたしだし。

美穂子はもう一度胸に手を当ててみる。

もうきゅんとしてない。
なんだこりゃ。

味噌汁と生姜焼き。ほかほかのごはん。

二人分をトレイに乗せて、ソファでゴロゴロしている先生のところに持って行った。

「ごはんですよ」
トレイを差し出すと、「わーい」と両手を上げる。

「いただきます」
ちゃんと手を合わせてから、先生は無心に食べ始めた。

もぐもぐもぐ。

口いっぱいにごはんをほうばる。

「うまいな、やっぱり」
先生は箸を持ちながら、にっこり笑った。

きゅんっ。

あれ?

美穂子は思わず箸を落としそうになってしまった。

やっぱりきゅんってしてる。

さては。

美穂子は思い当たった。

わたし、褒められるときゅんとするんだわ。

褒められ慣れてないから、つい「きゅん」しちゃったってわけ。なるほどー。納得。

美穂子はホッとした。まさかの「胸キュン」じゃなくて、心底安心したのだ。

だってコレ、三次元。

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