その件は結婚してからでもいいでしょうか

美穂子の瞳から、涙がポロポロとこぼれだした。

「え? え?」
先生が慌てている。

美穂子はメガネをとって、次々と溢れ出てくる涙を手のひらでぬぐった。

「せんせ〜」
鼻をすする。「好きですぅ」

先生の目がまん丸くなる。顔がボンッと赤くなった。

「やあ、そんな……まいったな」
真っ赤な顔で先生はオロオロし始める。

「好きです、先生の絵」
「……絵?」
先生の顔が一瞬で元に戻る。
「絵、です」

美穂子が言うと「なんだ」と先生は口をとがらせた。

「どうやったら、そんなに……本当に生きてるみたいに」
美穂子は嗚咽を堪えながら尋ねた。

先生は優しい笑みを浮かべて、椅子にもたれた。お腹のところで手を組む。

「美穂ちゃんは、絵がすごく上手い。仕事も丁寧だよ。でもストーリーの中で生きるキャラクターは、どこか現実味がない」

美穂子はじっと先生の言葉に耳を傾けた。

「たぶん、これまで読んできた作品からでしか、キャラクターを作れてないんだと思う。感じたこと、考えたこと、笑顔も、涙も、美穂ちゃん自身から出てきたものじゃない」

先生は笑う。

「体験してごらんよ。自分自身で。そうすれば美穂ちゃんから出てくるものには、命が吹き込まれる」

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