その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子の心臓が、ドキンと脈打った。
先生の声。トーンが美穂子を包む。
鏡の中の自分が、見る間に赤くなるのがわかった。
とっさに目をそらそうとしたが、ぐっと思いとどまる。勇気を出して自分の顔を見つめた。
わたしのピンクの頬。目が少し潤んでいる。
先生がわたしを「かわいい」って言った。
また心臓がドクンと大きく動く。
鏡の中の先生を見上げると、目があった。
どくん。どくん。どくん。
耳の中にまで脈打つ音が聞こえる。
これが、先生の漫画に描かれていた、もの。
「よしっ。じゃあ、ご飯の続き」
先生はニコっと笑うと、洗面所を離れる。
美穂子は自分の胸に手を当てた。
動いてる。ドキドキしてる。
そうか、この感覚を描くんだ。
美穂子はしばらくぶりに、何かを描きたいという、強い欲求に駆られたのだった。