その件は結婚してからでもいいでしょうか
翌日。
美穂子はしょぼしょぼする目をこすった。
先生の声、言葉、笑顔がずっとちらついて、全然眠れなかった。漫画を読む気にもなれない。ずっと自分の感覚の中に閉じこもっていたいような感じ。
初めてだった。
美穂子は支度を終えて、部屋を出る。リビングはシーンと静まり返っていて、誰もいない。
美穂子はいつも通りに家事をした。けれど、ずっと閉めたままの寝室の扉が気になって、すぐに目がいってしまう。
「いいのかなあ、起こさなくて」
美穂子は言った。
すでに十時。仕事は大丈夫だろうか。
次号の下書きは終わったんだろうか。
美穂子はクイックルワイパーを壁に立てかけると、扉の前に立つ。
やっぱりまだドキドキしていた。
どうしよう、これが「恋」だったら……。
美穂子は大きく深呼吸すると、扉をノックした。
「先生。朝ですけど……何時に起こしましょうか」
あいかわらず返事はない。
入って、いいかな……。
「失礼します」
そっと扉を開けた。