その件は結婚してからでもいいでしょうか
しばらくすると、扉がそっと開いた。
先生の目が覗く。
「殴るなよ。もう大丈夫だから」
「ほんとですか?」
「ほんと」
「じゃあ、どうぞ」
先生がリビングに出てきた。美穂子はちらっと確認する。
よし! 納めたな。
「美穂ちゃん……男性に対するその拒絶は狂気に満ちてるな」
先生が少しげっそりしながら言う。
「狂気をもってしても、抹殺したい代物です」
美穂子は吐き捨てるように言った。
三次元の男子なんて。
汚い。臭い。大嫌い。
実家は小料理屋だったが、酔っ払った客もたくさん見てきた。真っ赤な顔で、セクハラまがいのことを言い、実際に手を出す。お店の手伝いをしていた、当時まだ高校生だった美穂子のお尻を触った、あの脂ぎった男は一生忘れない。
美穂子はムカムカが止まらなくなってきた。
目の前のこの先生は、どんなに素敵な作品を描いても所詮は三次元の男。
許さん。
寝ぼけてる先生を「シャワー行ってください」と追い立てた。先生はこれ以上被害を出さぬよう、素直に言葉に従う。
「パンツパンツ」
先生は部屋に入って、着替え一式をもってきた。そのままバスルームへ。
もうその「パンツ」とか言っちゃう、そのデリカシーのなさも、いちいちカンに触る。
美穂子は棚からファブリーズを取り出すと、狂ったように吹きかけ始めた。