冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「えっと、由佐さんですよね……?」

「そうだけど。君、だれ?」

確認するために尋ねたわたしに、彼は眉根を寄せてさらに訝しげな顔をした。誰って……わたしがスーツだから気づいていないの?

「わたし、紘奈です。この前お店で……わたし、酔って寝てしまって、それから由佐さんと……あれからずっと、会いたいなと思っていたんですけど、連絡がなかったから……」

「店……。ああ、純のお店を手伝っていた日か。思い出したよ、紘奈さんね」

小さく笑みを浮かべた由佐さんは魅惑的だけど、“思い出したよ”というのは、わたしのことは忘れていたということだよね。それはつまり、彼にとってあの夜は、やはり遊び程度のものだったんだ。

ズキン、と胸が痛くなって、わたしは口を強く結んだままうつむいた。連絡を無視されているから、薄々わかってはいたけれどショックだ。
会いたいと思っていた……でも、自分だけこうして彼を想っていることが急に虚しくなる。だって、キスやそれ以上のことをしたのに、忘れられていたなんて。

「それで、君は二十七階になんの用? 押そうとしていただろ、ボタン」

なんだか、はじめて会った日とは少し雰囲気が違って、言葉が冷たく感じる。こんなふうに淡々と喋る人だったかな。

「面接です。事務員を募集していると聞いたので」

「ふうん……。面接はいいよ、十分だ。君は雇わないから」

「はい……?」
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