冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
すると、通路からバタバタと人が走ってくる足音がして、入口のほうへ目を向ける。

「……っ、嶋本さん! あっ、やっぱり残って……た!」

勢いよく入ってきたのは谷池さんで、息を切らしながらわたしの元へやってきた。あれ、谷池さんは今日彼女と食事で、早く帰ったはずなのに。

「鞄の、中に、俺のじゃないファイルが、入ってて……! 確認したら、課長が頼んでいた書類があったから! 帰るとき急いでいて、嶋本さんのものまで鞄の中に入れちゃったみたいで……本当にごめん!」

書類……!? 谷池さんがわたしに差し出したファイルを受け取って確認すると、探していた書類が間に挟まっていた。谷池さんが持っていってしまったんだ。

「これがなくて困っただろ? 課長に怒られた? 本当に悪かった……!」

「だ、大丈夫です、なんとか」

話の内容が聞こえていただろう由佐さんはこちらをじっと見ていて、呆れたような顔をしている。とりあえず、わたしは書類を由佐さんへ持っていった。

「谷池。お前がもう少し遅かったら、俺は無駄に書類を作り直すところだったんだからな。気をつけてくれよ」

「す、すみませんでした!」

申し訳なさそうに頭を下げた谷池さんは、その後すぐにオフィスを出ていった。彼女と食事をすると言っていたから、きっと相手を待たせているのだろう。
とにかく、わたしが作った書類があってよかった。
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